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今月の一言  2014年1月

食楽~「食は、感じるもの」

公益社団法人長野県栄養士会
福祉職域理事 植松 繁雄さん



人間が生きるための基本は「居」・「食」・「住」ですが、その中でも一番の基本は「食」であり、「健康」につながるものです。毎日の基本であるからこそ、高齢者の方にとっては年を重ねた分、より一層の「楽しみ」であり、「喜び」になっていると思います。
栄養士というお仕事から「健康」はもちろん「楽しく食べる」「健康に食べられる」と言うことについて、お仕事を通した経験はもちろん、「食を通して」色々な面からお話をお伺いしました。
1、 管理栄養士の職に就いたきっかけはあったのですか?

神奈川県横浜市出身の両親から、戦後の食糧難を乗り越えて生きて来たという話を聞いて育ったことで、食に対しての意識が強かったことでしょうか

2、管理栄養士として心掛けている事、大切にしている事はありますか?

医療機関で治療目的の栄養相談をしていたときのことですが、不用意に「お食事のお味はいかがですか?おいしく召し上がられておられますか?」と患者さんに聞いてしまったことがありました。その患者さんに「病気で具合が悪いから入院して治療している。食事がおいしく食べられるほど元気な人は入院なんかしませんよ。」と言われるまで、「おいしい食事を給食として提供しなければならない」という自分の意識が強すぎて「食べるという行動を促すためには、何が必要なのか」を忘れてしまっていました。
 医師の指示のもと、患者さんの臨床データに応じた、おいしい料理そして、きれいな食器・・・お盆の上に並べられた食事の管理だけが自分の仕事のすべてだと思い込んでいた自分に気付かされました。
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 現在の職場で栄養管理の対象とさせていただいているのは高齢者なので、地元ならではの食材の良さを生かしておいしく食べる術を教えていただいて、それを施設での食事メニューや機能訓練のためのカリキュラムに使わせていただくようにしています。
当施設での生活機能訓練は、基本的には在宅復帰を目指したものですが、在宅生活で必要な「家事」をクローズアップして、1日の生活に対してリハビリスタッフ・看護・介護職と管理栄養士が共同して、掃除・洗濯・炊事・片付け・昼寝・レクリエーション・おやつなどを通したトレーニングをしています。
 高齢者は「もともとできない」わけではなく、様々な要因(疾病などの後遺症・障害・認知症など)でご自宅では「一人では全体のコーディネートをすることができない状態」になっているだけです。
 佐久地域での伝統料理や昔作ったおやつ、保存食などをスタッフがサポートすることで、作ることができる場合が多いです。
また、それらの活動を行うことで、「自己実現を積み重ねた自立支援のための活動」としています。
それらの「自立支援」のための活動をとおして気をつけているのは、スタッフはサポートするだけで、ご本人ができることはやっていただくことが基本ということです。
作りたい物はご利用者(高齢者)に決めてもらい、必要な材料選びもしていただく。作る段取りもできるかぎり対象者に決めていただくこと。
できあがったら、作ってくれた(作り方を教えてくれた)ご利用者から「みんなに振る舞ってもらう」形でスタッフも一緒にいただいています。
みんなで作ったものを一緒に食べながら、その時期(季節)に他に作って食べていたものを話題にして、次回の計画に反映していくようにしています。全体の片付けも、ご利用者・スタッフも一緒に行うことで、みんなで楽しんで1日を過ごせます。
施設入所の期間にいくら栄養管理をして在宅復帰しても、なかなか施設内のような食生活が難しく、在宅生活を継続できなかったり、場合によっては体調を崩して入院してしまうケースもあります。そのため施設内での給食栄養管理においても、できる限りその人の生活に合わせた形態のものを提供するように留意しています。
プロッフェショナルな食事でなく、ご利用者やご家族が「家に帰ったら作ってみよう」と思えるような施設給食や生活支援を目指しています。
食行動は意欲から生まれます。意欲を向上させるには、施設生活でもっとも身近な存在である介護福祉士や看護師、励ましながら寄り添ってくれるリハビリスタッフの協力を得ないと、管理栄養士だけで実現することはできません。スタッフは、見返りを求めない人達で、皆優しいですよ!

3、「食をとおして」感じていらっしゃることはありますか?

現代の認識として、食事は「楽しむべきもの」「日々の生活に必要な栄養をとるためのもの」としての必要性は認識されています。私が管理栄養士としての経験をとおして強く思うのは、「食は感じるもの」だということであり、決して「食べなければならないものではない」ということです。
その中で「家庭で楽しく食べた経験」とか「食をとおして季節(旬)を感じること」というと、一見難しいことと思われるかも知れませんが、例えば「寒い時期に、家族でこたつにあたりながらみかんを食べる」などという日常生活で当たり前なことの中から「感じる」ということが育まれていくのではないかと思います。
昨今では「寒い時期には風邪の予防のためにビタミンCを取らないと・・・」といった知識が先行してしまい、季節感なく売られている他の食材やサプリメントの常用などによって、季節を感じなくなってしまうこともあるのかなとも思います。
 戦後日本の復興の一環としてスタートした「給食」も、それぞれの時代に合わせ「食べることができる」ことから「選ぶことができる」へ、「日常生活で不足しがちなものを補うもの」へと変化してきました。
 食べ物やサプリメントの選択肢が多すぎて、何をどう食べたら健康を維持・増進し、疾病を予防できるのか、義務教育の過程で栄養の知識教育を受けていても、実際に組み合わせて日常の食生活に活用することができず、足りなそうな栄養素を最終的にはサプリメントに頼って安心してしまい、食事そのものは後回しになってしまっている国民が増えているという現実があります。
 日常生活が豊かになり、日常で他にすべきこと、他に楽しめることが増えすぎていることも原因かもしれません。
 本来、楽しく、おいしく、普通の食生活をしているだけで、人は健康でいられるはずです。
でも、何故か病気になってしまう。「普通の食生活って一体どういうものか」を理解することが、非常に困難になってきています。
近年、医療や福祉の分野でも「多職種が協働して」ということばを良く聞くようになりました。
でも、それらの協働の基本は、日本人がもともと持っている「お互い様」という良い習慣から自然にできてくるものではないかと思います。
社会の整備が進み、国民全体が豊かになるに従い、忘れられてしまった「日本人の本来持っている温かさ」を大切にしていかないといけないと感じています。
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4、 個人としての「食生活」と「日常の生活」はどんな過ごし方をされていますか?

自分の育った環境(東京都品川区)と現在住の佐久市の食文化や食材の違いと、ありがたみを感じるように心がけています。
日常生活で自分でできることは自分でしています。食事作りは、妻が買ってきてくれる食材で食事を作ったりしています。
休日も平日と同じ時間に起き、食事をとって活動することで、毎日のサイクルを乱さないようにしています。何よりも、生活自体を楽しく過ごしたいと考えています。
食事をとることはもちろん、景色を見て季節を感じること、音楽ではトロンボーンを演奏すること其々すべて「楽しむことの方が優先」と考えて、全体にバランス良く楽しめる工夫をその都度するように心がけています。

5、 福祉介護べんり帖はご存じでしたか?

申し訳ありません。べんり帖の事は知りませんでした。
今回のインタビューはとても良い機会になりました。これから利用していきたいです。

温かい笑顔でむかえて頂き、“折角なので施設内を案内しましょう!”と一緒に施設を回らせて頂きました。
植松さんのお人柄ですね、利用者さん一人ひとりを大切に思う気持ちが、一人ひとりに対しての声掛けふれあい、行動のすべてに出ていました。心が熱くなり、おもわず私も声掛けをしていました。
毎日回りながらのふれあいから、その人その日の健康状態を知るうえで大切なのでしょうけれど、これも植松さんのお人柄と感じました。
栄養・食事は、体力づくりの面だけでなく、「食をとおして」人としての感性、情緒などの心も育てるという、心身両面の役割があることに気付くことのできた、貴重な時間でした。


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